太平洋食堂

太平洋食堂旅行記

日時2011年05月24日      テーマ熊野・新宮・太平洋食堂

熊野行 その3嶽本 あゆ美

 今回、唯一の一泊の泊まる先は青年劇場から紹介された、勝浦の中田勝康さんというマグロ屋さんのお宅でした。とても静かな勝浦の海にほど近い、「津波避難場所」の前にあるこのお宅は、よく青年劇場の人が泊まるという話で私も食客の一人になりました。「顕彰する会」の皆さまとの懇親会を終えて、精根尽き果てた私と福山さんを、中田さんと奥さまは暖かく迎えてくれました。中田さんはとても不思議な方です。まず朝早く市場へ行き、マグロを鑑定して全国に送り出す仲卸をやります。そして、ご先祖から受け継いだ修験道の行者もします。剣道もすごくて、少し前までは自宅で数学の塾をやっていて、自主映画の監督もします。祐川寺で三人で映ってる写真のご住職の隣の男性です。

 その「熊野伝説・加寿姫」という自主制作の映画ですが、熊野古道の大辺路にある駿田峠という処に祭られている小さなお地蔵様「加寿地蔵」に纏わるお話です。そのお地蔵様は平安時代に熊野詣で命を落とした御姫様を祭ったという伝承があり、中田さんはその地蔵尊の世話人会の代表をしています。そしてある時、詳しいことは分かりませんが、このお地蔵様を皆にひろめる為に、映画を作ろう!!ということになったそうです。それで、周り近所の素人の皆さん、子供達など知り合いを総動員して五〇分程の美しい熊野の景色溢れる映画を作りました。さあ風呂だ!と思った時、中田さんがこの映画のことを語りだし、DVDを見せてくれました。すごい低予算だということですが、半年ほど掛ったというロケ、最初は春だったのが終りの方は実際に蝉の鳴き声が聞こえます。

「この映画は不思議な映画なんよ。だって、単なる魚屋の私に監督ができるわけがないもん」

と言いつつ、きちんと完成された映画。見始めた最初は観光PRかな?みたいな感じでした。美人OLがJR特急に乗って、勝浦に降り立つ所から始まります。しかし陰陽師が何やら呪文を唱えるうちに、段々、ストーリーは盛り上がり、京の都から母の病を治す為の聖なる如意輪の滝の水をもらいに来た二人の超かわいい御姫様とお付きの三人は、滝を目の前にしてコワモテの修験道の山伏に阻まれます。全部、素人の出演と聞いていたのに、どこか??です。

 私「中田さん、この人ら妙に迫力ありますね。」

 中田「ああ、この人ら、プロなんよ。」

 私「プロの役者?」

 中田「役者じゃのうて、ほんまに修験道してる山伏なんよ」

 確かに、嫌味の無い初々しい御姫様は素人かなと思いましたが、この山伏は凄い迫力で、印を結んでる(と思う)シーンやホラ貝吹くシーンに、いちいちすごい説得力と体のキレがあるんです。さすがプロだ・・・・・殺陣のシーンもあり、これはどうやってたった一台のカメラで撮ったんだろう?と思うほど頑張ってます。2台、3台当たり前の世の中で、一台を駆使してよくぞここまでという感じです。しかも、ほとんど稽古もしないで一発撮りだったそうで、ここまでいくと中田氏、恐るべしですな。最後に御姫様は可哀そうに、命を落とされて祭られましたが、今も地元の篤い信仰を集めています。

 一番感心したのは、風景の美しさと被写体のマッチングですかね。熊野の濃くて美しい自然の中で、のびのびと演技している御姫様や村人達が何の違和感もなく、見ていると心が洗われるようです。日頃からそのお地蔵様の周辺に慣れ親しんだ愛ある目線と、慈しみが溢れ出るような映像でした。それから、画面から漏れ出る癒しのオーラがすごい。疲れも忘れ見て癒されました。この映画の為に集まった皆さんはお地蔵様の為に、ボランティアで半年に渡る撮影を乗り切ったそうです。ですから中田さんはこの映画を日本中の方に見てもらいたいそうです。そして熊野古道に実際来て下さいとのことです。私も時間と予算と事情が許せば半年ぐらい、全てをほったらかしてほっつき歩いてみたくなりました。

 私の余生は熊野詣とお遍路に決定ですな。

 映画のあらすじは下記でご覧になれます。

 加寿地蔵HP

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