太平洋食堂

太平洋食堂旅行記

日時2012年10月03日      テーマ熊野・新宮・太平洋食堂

リーディングを終えて嶽本 あゆ美

 話が行きつ戻りつで、全く整理がつかない私ですが、クララに足場を移しながら、上半身が先週末の座・高円寺に居るという感じでしょうか。ただ一夜のリーディングでしたが、素晴らしい演者に恵まれまして、確実に物語が立体になるのを感じました。本当に皆さんの声がそれぞれのキャラクターを、くっきりと浮かび上がらせてくれて感涙しました。キャスティングしてくれたコーディネーター石原燃さん、稽古を統括して下さった長谷基弘さん、リーディング部のチームワークに感謝です。

 今度の改稿の一幕ラスト部分で、私自身のテーマというかポリシーを初めてそのまんま、台詞にしました。「我々は背中から未来に進むことしかできない」
 これは堀田善衞がBuck to the futureという映画の題名に反応して書いたエッセイから知った概念です。それについては青春アドヴェンチャー映画とは全然関係なくて、要するに、「既に起きた過去は目の前に了然と広がっているから、眺めることができるが、未来についてはそのように実際に見ることはできない。言うなれば、我々人間は後ろ向きに過去に顔を向け時間の流れに沿って進んでいるにすぎない。」
 なるほどと思います。まあ、そういう目の前の過去でさえ直視できない人も多いのですが、このどこに行っちゃうか分らない後ろ向きに進むという不安感、これを忘れてカッポカッポと闊歩している所に、現代の不幸があるように思われます。そして、私は大昔に起きた大逆事件の「太平洋食堂」を書きながら背中の向こうで火がつき始めた現代を感じているのです。

 牧師か?卜師か?
 前者はクリスチャンで、後者は古代中国の亀の甲羅の占い師。ナビゲーターとして登場した沖田は、大逆事件の事情聴取で警官に職業を聞かれ「牧師です」と答えたら、調書に「卜(ぼく)師」と書かれて憮然となったそうです。明治の末年に牧師ではなく占い師の方がメジャーだったのかどうか分りません。が、この大逆事件を巡る不思議なミステリーじみた逸話が、沖野岩三郎の手記には確かに多数ありました。いわゆる迷信みたいなものに取り巻かれた新宮でしょうか。それを読み返すと、誠之助などが常々、自分の末路について漠然とした不安以上のものを抱いていたような気がします。自分が絞首刑になる未来の予兆も笑い飛ばしながら、洋食屋を開いたり、演説会をしたり、不遜なエッセイを書いたり・・・そうやって新宮町内で次第に孤立していった太平洋食堂の面々。ドクトルと和尚と牧師の三人が抱いた夢は何だったのか?それが二幕の要になります。彼らは明治42年の憲法発布二十周年の夜、教会で「ダーウィン生誕百年祭」を開きます。この過激さというのが如何程のものなのか?チェーホフで御世話になった内田さんに教えて頂きました。内田さん曰く、ダーウィンの「進化論」とは、身分制度も人種差別も神の天地創造もキリストも全て否定する事になりかねない理屈で、それを受け入れながら次にどこへ踏み出せばよいのか迷っている明治人の葛藤、これいかに?

 結構こういうの、日本人は得意ですね。ハロウィンやって、クリスマスやって、御正月にバレンタインデーですから。恋愛現役の人にとっては、いろいろイベントが無いと困ります。オバサンにとっては、へえそう・・・・ですが、バレンタインに女子から一つもチョコが貰えなかった我が息子(隣のお爺ちゃんだけがくれたっけ)にとっても、へえそう・・・という事になりましたが。
 リーディング後のディスカッションで、私が心配したよりも、太平洋食堂は聴衆の皆様に受け入れて頂けたようです、もちろんフィクションとして。役者の魅力が私の改稿に大分、トッピングを豪華に盛って下さいました。
 燐光群・鴨川てんしさんは、本物よりも本物らしくて、本当に情けなさ溢れる素敵な和尚でした。誠之助をワイルドに演じたPカンパビー・内田さんと、おゑいの杉嶋は年の差婚夫婦の甘ったるさも含めてお似合いでした。若手の山本さん、若松さんはラブドッキュンな伊作と沖田、しかもヴィヴィッドで手堅いという難易度。幸徳秋水の燐光群・猪熊さんに至ってはそのままスピン・アウトして、管野スガとのドロドロ恋愛を演じて頂きたくなりました。議長、署長、西安先生は、モデルのないオリジナルキャラにも関わらず凄い存在感で、初対面のはずのだるま座の剣持さん、燐光群の川中さん、我らがアナニエフ清田氏は、実は「さくら水産」で毎晩飲んでるんじゃないかなあ・・・と邪推しました。沢山のキャラを演じ分けて頂いた、燐光群・杉山さんは、ブレア首相の時の印象が強かったのですが、しっかり新宮の兄ぃになってて、流山児の甲津さんの唯一ネイティブ関西弁は台詞に陰影を与えてくれました。直球のつついさんのマッチ売りにドキッとし、ステージディレクションの円城寺さんの凄さに、流石の貫録を感じました。
本当に皆様のおかげです。
 まあ、要するに、私はまだまだケツがお青いですね。つまりこれが、一番の感想!
秋の夜長に最適な、Ustにてリーディングを再生してご覧下さいませ!!

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日時 2013年7月3日(水)〜7日(日)

会場 座・高円寺

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