太平洋食堂

太平洋食堂旅行記

日時2012年09月03日      テーマ熊野・新宮・太平洋食堂

カンソンとスガ嶽本 あゆ美

 皆様、如何お過ごしでしょうか?
 相変わらずの残暑で日干しの様になりながら、私は書物やパソコンに向かっております。
 冷房をつけたくないという妄執によって、能率が落ちているのも気がつかない程の消耗です。まあ、土用に干されている梅干をご想像下さればいいのではないでしょうか?又は、七日間泣き続けて、コロッと地に落ちた蝉ではなく、その抜け殻とか・・・・・

 さて、「太平洋食堂」を巡る旅も最終部分になりました。
 通常、私が何か書くのに、関係者をこれほどしつこく直接訪ね回った事はなかったのですが、「大逆事件」に関しまして、どうも自分のキャパだけでは理解しきれない人間関係の縺れ方が多く、改稿前にこないだから、滋賀だ千葉だ、と駆け込みで訪ね歩く事になりました。実は、6月の朗読公演「劇が孵化する夜に」から不思議なご縁で、社会主義研究家の堀切利髙さんと巡り合う事ができました。正確には娘さんで編集者の、堀切リエさんを通じてお会いすることができました。

 堀切さんは、生前の荒畑寒村と親しく、又、大逆事件研究の第一人者でもあります。御年八十歳を超えて、お元気でいらっしゃいます。荒畑寒村は平民社の若者の一人で、赤旗事件で収監されていたため、大逆事件に巻き込まれずに生き延びました。事件後は、社会運動家、小説家、評論家として活躍し、昭和56年にお亡くなりになりました。その寒村と親しく交流された堀切さんを千葉のご自宅に訪ねました。(今回の千葉行きには、相変わらず目が回っている私を助けて(発酵シタラバ、)の堀田りえこさんが同行して下さいました!感謝!)

 一番、気になっていたのは、管野スガと荒畑寒村の仲。実際、どんなだったのか?

 お前は芸能レポーターか?と言われてしまいますが、管野を描いたり研究したりしている人々の中で、彼女の評価はとても分かれます。「孤高のテロリスト」「稀代の毒婦」「新しい女性」どれも、一筋縄では行かない印象ですが、誰も魅力が無かった!とは書いてません。相当、魅力があり過ぎた!んだと思います。決して、既成の美女には当てはまらないながら。この既成の美女という括り、誰が作ったんでしょうね?私から見ると、管野はついつい目が行ってしまうタイプです。

 瀬戸内寂光の「遠い声」に書かれている管野は、所謂・官能小説的です。瀬戸内さんは、実際に荒畑さんにインタビューし書簡を重ねてそれを書きました。ある場所からは、振られた男の「怨み節」で本物の管野はもっと気高い女性だった、という説(荒畑寒村は、幸徳秋水に彼女を盗られたと思ってました。実際は、六歳年下の男が物足りなくなった女の方から愛想を尽かしたのですが・・)、ちょっと官能小説は「盛り過ぎ」だけど火のない所に煙は立たない説など、これでもか!というほどスキャンダラスなゴシップを伴って響いてくるのです。しかし、しかし、それもこれもひっくるめて、決して彼女の疵ではないと、私は思うのですが・・・・聖人君子、ウンチもセックスもしない女って何よ?という感じ。

「もうみんな、居ない……」
 堀切さんが寒村やその周辺の社会主義者達の事を、「あいつは好い奴だったんだ・・・でも、もういないんだ」と切々と語る表情を見ていると、堀切さんの目に残像として残った彼らの姿が、こちらに転写されてくるようでした。明治の平民社の面々の熱い息吹が、立ち昇るような錯覚を覚えながら、その先にある幸徳と管野のシルエットを捉えるのに貴重な時間となりました。

 寒村は、大逆事件の死刑執行の後、管野の通夜に駆け付けたものの、棺の中の恋人の死に顔を見る事が、とても辛くて出来なかったということです。寒村は直情的な男で、千葉の監獄を出所後、ピストルを手に入れ、桂首相を狙ったり、恋敵の幸徳秋水にリベンジに行ったりしますが、果たせずに自殺を考えます。そして、やっぱり引き金も引けずに横浜の実兄の所へ行ったら、「そこまでお前は狂っているのか?」と諭され兄は弟の為に泣いてくれた、ということです。その後、明治男の「俺の空」的な行動で、横浜の遊郭に女郎買いに行くのですが、年増の世話係の女性に「少し頭を冷やしなさい」と言われて船代を貰い、船にのって房総半島へ行ったら、たまたま偶然、かつて管野スガと遊んだ房総半島の浜金谷の旅館に泊ってしまったそうです。そこでそれに気づいて、号泣したそうです。
愛されるって、こういうことか・・・とブツブツ。

 大逆事件後、平民社の面々は散り散りに。厳しい検束で仲間もほとんどいなくなり、人形町の歓楽街近くの下宿に身を潜めて、寒村は自暴自棄になって、遊んでは気を紛らわせたという事です。かつて、牟婁新報の記者時代、管野や大石誠之助らと共に、廃娼運動をしていた彼が……。矛盾を感じる細かい女は私だけかもしれません。誰かその生理的理由を教えて欲しいなあ・・・と思いつつ、同時代の小説家・長谷川伸(瞼の母です)も、玄人の女性しか愛さなかったけれど、娼妓の自由廃業の為に体を張って守ったという逸話を散々読んだので、次の世で男に生まれ変わったら、自分で確認したいと思います。

 余談ながら、寒村は後年、その千葉行きの船賃をくれた女性「おたまさん」と、結婚します。ちょっと嬉しくなりますね。彼はすんごい年上好みだったそうです。

 「太平洋食堂」で平民社や管野が出てくるのは二幕以降です。とにかく、月一リーディングに向けて、第一幕の書き直しを進めねば~の私です。多分、大丈夫と今の所は楽天的。だって、頭の中では既に新しいバージョンで上演DVDが再生されていますので、それを私は記録するだけです。もうすぐバルクアウトのコマンドを押します!乞う!ご期待。
(キリギリスでは無かったはずが、締切地獄に陥っている私の妄言だったらごめんなさい)

*月一リーディング、お席に限りがございます。お早目にお申し込みを!

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日時 2013年7月3日(水)〜7日(日)

会場 座・高円寺

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