太平洋食堂

太平洋食堂旅行記

日時2012年08月04日      テーマ熊野・新宮・太平洋食堂

風文庫③~まつろわぬ民と、路地の向こう側嶽本 あゆ美

風文庫③~「伏わぬ民」まつろわぬ民と、路地の向こう側

 まつろわぬ、とは恭順しない、服従しないという意味です。日本の各地の先住民族、アイヌ、蝦夷、蝦夷、土蜘蛛、薩摩隼人、熊襲、琉球などを指します。もちろん、これは征服者である大和朝廷側からの呼び方であり、「まつろわぬ民」には、「まつろわぬ神々」がつきものです。
征服された土地の神は、大和神話の体系の中に組み込まれ、今ではそのほとんどの姿が消えました。そこまで泉先生に説明されたとき、昨年の「闇鍋」の「神有月の大神楽」公演の友寄アレイちゃんの祝詞を思い出し、思わず吹いてしまいました。ゴペンナサイ。
風文庫にあった莫大な書物や資料は、北海道アイヌに始まってその日本史の裏側を彩る「まつろわぬ民」についてのものが一角を占め、まあ、清休寺に住み込んでお寺の小僧kかタヌキにでもなれば、最短距離でそれらについて学べそうですが、そうもイカの塩辛。通りすがりの仮面ライダーならぬ、一泊二日の私でした。

 泉氏は、明治政府の北海道開拓に大谷派が布教活動によって協力した結果、アイヌ民族が損なわれたという調査・顕彰をしています。なんでまたそんなことを?東本願寺は、幕末から何度も炎上しているのですが、1977年の大学紛争時にも、爆弾を仕掛けられてやっぱりブッ飛ばされたそうです。団塊の世代で京都で青春を送った方、ご存知でしょうか?その時の事件の犯行声明に、「東本願寺は明治政府と共にアイヌモシリ侵略に加担し~」という一文があり、そこからこの道に入ったそうです。明治維新や、僻地への布教が偉大とされた教団の歴史の中でそれに疑問を持つことから、実際の調査行動へとアクションされたわけです。泉氏が最初にアイヌの方に話を聞きに行った最初に、いきなり僧衣をめくって浴びせられた罵声とは、「シャモ坊主、衣の下に鎧を着とるんじゃないのか?」
ズル(ずるい)シャモと呼ばれた出会いから、good neighborを意味するシ・サム(友人)と呼ばれるまでには大分時間が掛かったというお話でした。

 中上健次の「千年の愉楽」の最終話「カンナカムイの翼」では、中本の一統の若い衆の達男が路地を出て、北海道へと向かいます。達男はそこの炭鉱でアイヌの若者と出会い、鉱山暴動を企みます。「オリュウノオバは、路地と同じような条件で生きている未知のアイヌを識って言い知れぬ衝撃を受け」「そうやって二人の若い男らは、自分らが路地とコタンのそれぞれに生れた同じ人間である事、路地のある紀州と環境のまるで違うそこに同じような路地があり、同じ宿命を持って生れたことを確かめた」
 抜粋が長くなりますが、この後、「オリュウノオバは考えつめ、自分が達男とそっくり入れ代る事が出来たなら、北海道に点在するコタンと路地を結び、理由なく襲いかかってくる者ら、いつでもしたり顔で近寄ってくる者らをやっつけるために弓矢を用意し、鉄砲を用意し、爆裂弾を用意して、戦争をするだろうと考えた。戦争はオリュウノオバの過激な発想で、礼如さんは、「オリュウ、またそういう事を言う」となだめるに決まっているが、礼如さんが突然、毛坊主になったのも元はと言えば路地を巻き込んだ戦争のせいだったと言えば言える」「戦争などいまさら恐れる事などなかった」
 オリュウノオバの夫の礼如さんは、毛坊主で、大逆事件で逮捕・獄死した浄泉寺の和尚・高木顕明の後をついで、弔うものをいなくなった路地を、経を唱えて巡るようになりました。この小説は実在の「リュウ」と「レイジョ」のモデルがあってのフィクションです。この路地のタピストリーに織り込まれた大逆事件の顕明の姿は、史実でみるよりも大きく神話に満ち満ちているのです。新宮の路地のから始まるサーガは、世界の路地への道でした。

 泉氏が訪れた北極イヌイットの部族の中では、民族の誇りとアイデンテティを再構築しようという取り組みが、ある日本女性の活動によって現在も為されているということです。議会や司法などで、イヌイット自身による直接民主主義を模索してるそうです。
 文庫の天井からぶら下がっていたのはイヌイットにもらったというスキナーskinner つまり、皮はぎ用のナイフ。又はスキナーとしても用いるイヌイットのウルナイフ。これは、カリブー(となかい)の皮を剥ぐのに使うものです。村上春樹の「皮剥ぎボリス」を思い出しながら、そのスピナーが湖北の寺まで来た旅路を思い、アリューシャン列島が地続きだった頃の地球を思い、私の旅が本当にはまだ終わらないだろうなという予感に、ため息をついたのでした。九つの世界を旅するには、やっぱり仮面ライダーみたいな変身技が必要です。

 脳みそのメモリーのキャパシティ一限界の取材成果を持ち帰って家のドアを開けたら、更なる混沌がリビングに広がっていました……ゲゲゲ!!!さて、夏も佳境ですね。太平洋食堂の改稿、お楽しみに。しかし暑い!!下北沢でがんばってる相棒よ、お疲れ様。

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日時 2013年7月3日(水)〜7日(日)

会場 座・高円寺

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